歌の呪力と文字を持っていなかった日本語

言葉には不思議な霊力が宿る、と古代の日本人は考えていました。
日本の文献で初めて”言霊”が登場するのが「万葉集」、そして山上憶良の「好来好去の歌」の中に出てくる”言霊の幸(さき)わう国=言葉の霊力が幸福をもたらす国、日本。”というフレーズがあります。

神代より 言ひ伝て来(け)らく そらみつ 倭の国は
皇神(すめかみ)の 厳(いつく)しき国 言霊(ことたま)の 幸(さき)はふ国と
語り継ぎ 言ひ継がひけり(以下略)

『万葉集』巻5・894山上億良(好去好来歌)

真実は口伝えの中にしか残らない、と古代では書いたことより話したことの方が優先され、それほどまでに言葉は大切にされていました。
現代でも、例えば結婚式などの公式の場では使ってはいけない言葉があったり、「死」を連想させる「四」の数字を、ホテルやマンションの部屋番号に使わない、などという風習が残っています。

そもそも古来、日本語は文字を持っていませんでした。

日本人が組織的に漢字を学習し、使用するようになるのは西暦400年頃であろうと推定される。日本への漢字の移入のルートはおそらく、朝鮮半島からであろう。

月本雅幸著『日本語概説』より抜粋

それゆえ、書いたことより話したことの方が優先されるようになったのではないか、と私は考えます。

歌の呪力

国語学の立場からは否定されていますが、歌の語源説に「訴え」という説があります。

音数律や枕詞は、歌を日常の言葉から区別する特別なしるしにほかならない。(省略)和歌には不思議な力が宿るとされた。これを言霊のはたらきと捉えてもよい。その不思議な力は、歌の向かう対象に作用を及ぼした。
歌の語源説に折口信夫氏などの説く「訴え」説がある。対象に訴えるから歌だとする説である。

多田一臣著『古事記』と『万葉集』より抜粋

1200年以上前から言い伝えられている言葉の力。言葉に出すことで発揮される言葉のエネルギー。これらの言葉を歌にのせて、目に見えないものを大切にする日本の心を音楽を通してイタリアで紹介したいと思います。

言霊をテーマに作った曲です。
『はなむけの歌』-「万葉集」より山上憶良”好来好去の歌”-(第12回万葉の歌音楽祭大賞受賞曲、主催:犬養万葉記念館)

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