2016年「万葉歌姫コンサート」プログラムノート

2016年「万葉歌姫コンサート」プログラムノートをご紹介します!

「日本書記」より”美しき国へ-天上無窮の神勅-”

かつて霧島神宮があった古宮址を訪れた際、鳥のさえずりが聴こえる無人の静けさの中に、社殿があった時代の華やかさを想像してこの場所をテーマにした曲を作りたくなりました。その後、地元鹿児島を始め、高千穂、出雲、福岡、奈良などの神社に参拝する中で、日本の歴史について考えるようになりました。

日本最古の書物である『古事記』や『日本書紀』を読む中で出会ったのが、「天壌無窮の神勅」。太陽神であり皇室の祖先神である天照大神の御孫であられる邇邇藝命が地上に天降られる時に、天照大神が邇邇藝命に与えられた<神勅>のひとつです。霧島にはこの天孫降臨の伝説が残っており、高千穂峯の山頂には神代の旧物「天の逆鉾」が突き刺さっています。

イントロ部分の「笙」の音色は、天からの光を表しています。
人々が穏やかな気持ちで平和に暮らせるよう、祈りを込めて作った始まりの曲です。

豊葦原(とよあしはら)の千五百秋(ちいほあき)の瑞穂(みずほ)の國は、是(こ)れ吾(あ)が子孫(うみのこ)の王(きみ)たるべき地(くに)也。宜しく爾皇孫(いましすめみま)、就(ゆ)きて治(しら)せ。行矣(さきくませ)、寶祚(あまつひつぎ)の隆(さか)えまさむこと、当(まさ)に天壤(あめつち)と窮(きわま)り無かるべし。

天壌無窮の神勅

「万葉集」より”夢の旅人”第2回万葉の歌音楽祭村長賞受賞曲

万葉の歌音楽祭のために、初めて作った万葉集の曲です。
万葉集について何も知らなかった当時の私は、図書館に行ってたくさんの万葉集の本を借りました。

年季の入った本を開くと、日本語なのによく分からない言葉の羅列。厚い本に小さい文字。この中から曲作りのための和歌を選ぶのは困難でした。
それですので、本をいちにのさんで開いて、開けたページに乗っている和歌を題材に選ぶことにしたのです!選んだこの和歌は、山・河・春・秋・朝・夕の対句がリズム良く、作曲していて楽しかったのを覚えています。さらに、私は開いたページしか見ていませんでしたので、この長歌に反歌が付いていることを知らず、長歌だけで音楽祭に出品したのです!その後、反歌も付け加えて一曲に仕上げました。

万葉集を代表する歌人、山部赤人は自然の歌を中心に旅の歌を多く残しています。
この和歌が作られた当時、都は平城京。都が移ったあと、古都明日香の景色をながめて詠んだ歌です。
当時の美しい風景が目に浮かぶようで、まるで一枚の絵画を眺めているような自然の彩り豊かな和歌に感じます。

『万葉集』第三 324 325 山部 赤人
三諸の 神名備山に
五百枝さし
繁に生ひたる つがの木の
いや継ぎ継ぎに 玉かづら
絶ゆることなく ありつつも
止まず通はむ 明日香の 奮き京師は
山高み 河雄大し
春の日は 山し見がほし
秋の夜は 河し清けし
朝雲に 鶴は乱れ
夕霧に 河蝦はさわく
見るごとに 哭のみし泣かゆ
古思へば

【反歌】
飛鳥川 川淀さらず 立つ霧の
思い過ぐべき 恋にあらなくに

夢の旅人

オリジナル曲”遠い記憶”

昼と夜の長さが同じになる、春分・秋分の日。

アンコールワットの回廊には赤い陽が差し込み、この日しか見られない光景があります。
天体との関連性を想像させるアンコールワットや、ベンメリア遺跡を訪れたことがこの曲を作るきっかけになりました。

日本や世界を旅する中で誰もいなくなった遺跡や建造物を訪れると、華やかな時代はどのようなものだったのだろう、どんな人が行き来していたのだろう、そして人々はどこに行ってしまったのだろう、と諸行無常を肌で感じます。

どんなに文明が発達しても、私たちは大きな自然の流れの中で共に生きているだけということを思い出させてくれます。

『遠い記憶』
作詞・作曲/Ikumi
遠い遠い昔のこと
風が土が覚えている
水辺に花が咲き
乱れていた 美しい
おだやかな日々が 流れ
人は笑顔に溢れてた
踊り 神に祈り
赤い空 星空の秘密
静かに 眠る記憶
太陽の闇の 季節を繰り返して
重ねて行く 大地に
悲しみも喜びも
見つめてた ずっとここで

遠い記憶

「万葉集」より”はなむけの歌”第12回万葉の歌音楽祭大賞受賞曲

この曲は私にとって思い出深い大切な曲です。
就職して音楽から長年離れていた私が、再開して久しぶりに作った曲です。自分の本当にやりたかったことに気づくために、人との出会いと勇気が私の人生を幸せなものに大きく変えてくれました。音楽の世界から一度離れたからこそ、今の喜びや楽しさを強く感じることが出来ます。

曲名を『はなむけの歌』と付けたのも、この曲の主旨である旅の安全を願った歌ということと、音楽を再開するにあたり、素晴らしいスタートが切れますように、という自分自身への願いを込めたからです。

「言霊」という言葉が初めて使われたのが万葉集でこの歌を選びました。言葉に宿る神秘的な力、エネルギーに先人の智慧を感じます。

『万葉集』-巻5-894山上億良 (好去好来こうきょこうらいの歌)
神代より 言ひ伝て来(け)らく そらみつ 倭の国は
皇神(すめかみ)の 厳(いつく)しき国 言霊(ことたま)の 幸(さき)はふ国と
語り継ぎ 言ひ継がひけり 今の世の 人もことごと
目の前に 見たり知りたり 人さはに 満ちてはあれども
高光る 日の朝廷(みかど) 神ながら 愛での盛りに
天の下 奏(まを)したまひし 家の子と 選びたまひて
大命(オホミコト) 戴き持ちて 唐(もろこし)の 遠き境に
遣はされ 罷りいませ 海原の 辺(へ)にも沖にも
神づまり 領(うしは)きいます 諸々の 大御神たち
船の舳に 導きまをし 天地の 大御神たち
倭の 大国御魂(みたま) 久かたの 天のみ空ゆ
天翔(あまかけ)り 見渡したまひ 事終り 帰らむ日には
又更に 大御神たち 船の舳に 御手うち掛けて
墨縄を 延(は)へたるごとく 阿庭可遠志 値嘉(ちか)の崎より
大伴の 御津の浜びに 直(ただ)泊(は)てに 御船は泊てむ
障(つつ)みなく 幸くいまして 早帰りませ(894)
反歌
大伴の御津の松原かき掃きて我立ち待たむ早帰りませ(895)
難波津に御船泊てぬと聞こえ来ば紐解き放けて立ち走りせむ(896)

はなむけの歌

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