風の色が春になってきたので、春らしい曲を作りたくなりました。
『万葉集』屈指の名歌、大伴家持の「春愁三首」。
実はこの歌が評価されるのようになったのは、近代に入ってかららしい。
春の野に 霞たなびき うら悲し この夕影に うぐひす鳴くも(巻19・4290)
わが宿の いささ群竹(むらたけ) 吹く風の 音のかそけき この夕(ゆうべ)かも(巻19・4291)
うらうらに 照れる春日に ひばり上がり 心悲しも ひとりし思へば(巻19・4292)
外界の世界を歌い手の心の比喩とする。
黒沢明監督がすぐに思い浮かびましたが、実は万葉の世界からこうした表現方法はあったのですね。
景物と心が乖離しながらも一体化される世界に、家持の研ぎ澄まされた感性の美しさを感じます。
この歌が詠まれたのは、天平勝宝5年(753)の2月23日と25日。
家持の感じた春に想いを馳せながら、心地良い春の日差しとゆったりとした時間の流れの中で、新しい曲が出来ました。